ビレイをする人の心得(初級編)
ビレイとは?
ビレイとはロープを使ったクライミングをする場合、クライマーの安全を確保する人のこと。ロープにビレイデバイスを取り付けてロープの長さを調整してクライマーの安全を確保します。ビレイを行う人のことを「ビレイヤー」と呼びます。
ここでは、クライマーがビレイヤーとなるための第一歩「トップロープ・ビレイ」を行う時に必要な心得をご紹介します。ビレイは人の命を預かる重要な行為です、正しい知識と練習を行い何より安全を最優先に取り組んでください。
トップロープとは?
トップロープとは、終了点にあらかじめロープをかけた状態で登るクライミングスタイルです。中間支点にロープをかけながら登るリードクライミングに比べて安全性が高いので、ビレイをはじめて行う場合、このトップロープのビレイから行いましょう。
それでは早速ビレイにおける心得をみてみましょう。
※トップロープでの心得として紹介していますが、これら当然リードのビレイでも必要な心得です!
1:役割
基本的にクライマーが指示を出す立場でビレイヤー は安全確保とクライマーが登りやすいようにサポートする役割だということを認識すること。クライマーは受け身にならず、はっきりとビレイヤーにコール(指示)を出すこと。一方、ビレイヤーはクライマーに危険が及ぶような状況では積極的にクライマーに注意喚起を行うこと。
2:ビレイヤーの履物
ビレイ時の履物について。サンダルでも良いがカカトがあるもの(クロックスなど)にすること。足場が安定しない岩場でビーチサンダルなどは危険(ビレイヤーが 転倒するという意味ではなく、クライマーの安全確保ができないという意味で危険)
3:ビレイ・グローブ
写真:YAMA HACK
手袋は無いよりはあった方が安全という考え方が主流だが、クライマーのフォールはデバイスとロープのフリクション(摩擦)で止まるのであって、決して手/手袋とロープのフリクションで止まるようなものではないので勘違いしないように。しっかりとデバイスの機構を使って止めることをまず覚えること。
4:ビレイ・デバイスへの巻き込み
髪の毛やアクセサリー、首から掛けたタオルなどはビレイ・デバイスに巻き込まれないようにまとめておくか予め外しておくこと。巻き込まれてテンションを解除できなければ切るしかない。
5:カラビナ
ビレイ・デバイスとセットで使うカラビナはHMS型のロック機能が付いたものを使用すること。回転防止のためのワイヤーが付いているものが使いやすい。
なお、 自動ロック系のカラビナは便利な反面、内蔵された バネ類が劣化して緩むとロックがかからなくなったり、そもそもギア・ラックから片手で外せない(外せるタイプのワンアクションのツイストロックは安全度が低い) ので岩場でとっさにセットできないデメリットあることを覚えておいた方が良い。
6:カラビナのセット
ビレイ・デバイスをセットする際は、カラビナのゲートは利き手の逆側に来るようにしておく(ロープとの接触摩擦によるゲートオープン防止のため)。
7:安全チェック
クライマーとビレイヤーは相互安全確認を行う。ビレイヤーはクライマーのロープ(8の字結び)が2つのタイイン・ループに通っているかどうかを確認する。新しいロープの場合は必ず末端処理をさせること。商業ジムなどで止むを得ずロープとハーネスをカラビナで 連結する場合には安全環付カラビナを使用しているか、カラビナを2つ使用しているか、ゲートが互いに逆向きになっていることを確認する。クライマーはビレイヤーのビレイ・デバイスのロッキング・カラビナのロックがかかっているかどうか確認する。
8:デバイスのセット
ビレイ・デバイスを通っているロープの向きが正しいか確認する。アシストロック機能が付いたデバイスは逆向きにセットすると機能しないので注意。
9:ハーネス
ビレイヤーはクライマーのハーネスのウエスト・ベルトが通っているか(「返し」が必要なハーネスではきちんと返っているかどうか)を確認する。ヒモの類(ハーネスのベルトやチョーク・バッグのベルト)がブラブラしていたら固定させる(強いクライマーほどキッチリしていることが多い)。クライマーは登ることに直接関係無いようなものはギア・ラックにぶら下げない方が良い。フォール時にホールドなどに引っ掛かると落ちる体勢が変わって頭部を打つリスクがある。同じ意味合いで、ボルダリングエリアで登る時はハーネスを外すこと(ギア・ラックがフォール時にホールドに引っ掛かってケガをする事故例有り)。
10:ルート下部
クライマーが「登ります」とコールして登り始めたらビレイヤーは下部ではロープを張り気味で手繰る。20m のルートでは、ロープの長さである 40mの6%程度は 伸びるので全く緩みがない状態で地上から足が 2.5m 離れていてもグランドフォール(地面まで墜落 すること)すると思った方が良い。クライマーはロープ が弛んでいたら「もうちょっと張って」とビレイヤーにコ ールすること。
11:ロープの手繰り
クライマーがグランドフォールしない程度まで登ったら ロープは張らず、かといって緩みすぎないように一定に保つ(大きいストロークではなく、こまめにたるみが 無いように手繰る)。クライマーのロープの結び目が 下向きに垂れないようにする。ビレイヤーの役割は安全確保。グランドフォールを避けることを最優先する。
12:注意散漫
ビレイ中はクライマーから目を離さない。注意が逸れ てロープが弛まないように(下部だとグランドフォールを招く)。周りの人はビレイヤーにあまり話しかけない。 ビレイヤーの傍を通る時はなるべく前を横切るのではなく、後ろを通ること。ロープを結んでいる最中のクライマーに話しかけるのも良くない。
13:手繰り方
ロープを手繰る時は、手繰り手を持ち替える場合はロープを下ろしきってから持ち替えること(デバイスの上側では替えない)。そのまま手の中をロープを滑らせ て引上げる場合は指でつくった輪を開けないようにすること(その瞬間にフォールしてもすぐ対応できるように)。
14:デバイスの種類
写真:PETZL
ブレーキアシスト機能付きのデバイスを使用していても制動側のロープは常時保持すること。完全に手を離してしまっている人が散見されます。初心者はまずATC などのチューブ型のデバイスで基本動作を身につけてからグリグリなどのデバイスに手を出した方がよい。
15:制動手の位置
ビレイ中はロープを手繰る手がデバイスよりも上にある時間(墜落するとロープが流れてしまう状況)を最小限に留め、デバイスの下(制動側)にキープすることを心がける。
16:レスト時
クライマーがレスト体勢に入ったらロープを張らないように特に気をつける(張られるとクライマーの腰が上に引っ張られてレストできなくなってしまう)。ロープを 出すか、支点直下に向かって 2、3 歩歩くだけでロー プは緩む。
17:クライムダウン時
クライマーがクライムダウンする(自分で降りる)時は ロープを出す。なお、クライムダウン時のコールが「降ります」で、ロワーダウンのコールは「降ろしてください」。
18:勝手にテンションしない
クライマーが落ちそうになってもクライマーからコールされない限り勝手にロープにテンションをかけないこと。 ビレイヤーがロープに力をかけてしまったらその時点でせっかくのトライが終わってしまうことを忘れずに。 落ちる距離を少しでも少なくしようとして張るのも NG。 (言うまでもないがルート下部ではこの限りではない)
19:テンションのコール時
クライマーの「テンション」のコールかかったら素早くロープを手繰り、体重をかける(自分がジャンプして一気に手繰っても良い)。1 秒以内にテンションをかけること。テンションがかかった状態では両手で制動側 (デバイスの下)のロープを保持してもよい。ビレイ・デ バイスの上側のロープを手で下に引っ張るのは意味が無い(疲れるだけ)。
20:「登ります」コール
クライマーがハングドッグ(ぶら下がってムーブを探ること)後、再度登り始める直前にクライマーが「登ります」とコールするが、ビレイヤーはコール後速やかに抜重(かけていた体重を抜くこと)してロープを緩めること。他方、クライマーは壁に復帰時にホ ールドに体重を乗せ切る直前に「登ります」とコー ルすること。何も言わずにホールドに体重を移すと ビレイヤーが尻もちをついてしまう。ビレイポイント が悪ければビレイヤーが転倒してケガをする恐れも有る。
21:体重差
クライマーの方がビレイヤーよりかなり重い(10kg 以上とか)場合は、ビレイヤーはクライマーがフォールしてロープにテンションがかかる前に自分の腰を下げて衝撃を吸収する(これによって自分の体が宙に浮いてしまうことを避ける)。その直前にロープを手繰るとさらに良いのだが、初心者はそこまでしなくても良い (却ってロープが流れるリスクも有るため)。
体重差が大きい場合、ビレイヤーは立ち木にスリングを巻きつけてセルフビレイをとっておくと良いでしょう。この時セルフビレイのカラビナは必ずビレイデバイスの下にくるようにセットする。
また外岩では足場に傾斜があることも、その場合できる限り傾斜の下部からビレイするように心がける。上部にいるとクライマーがフォールした時ビレイヤーが打ち上げられクライマーと衝突してしまいます。
22:立ち位置
垂直以上の壁の場合、ビレイヤーはクライマーのフォール時に振られる方向を考えながら立ち位置を変えること。クライマーが支点を中心に右側にいるなら左側に振られる。その時自分が左側にいればロープが絡まってしまう。
23:ロープが絡まったら
クライマー側のロープとビレイヤー側のロープが交錯して絡まってしまったら捩れを取ること。クライマーはロープを持ったりせず(持つと回転して余計に絡まっ てしまう)ビレイヤーが大きくクライマーのまわりを回ることで捩れを解消すること。クライマーはどっち回りに解消するのかをビレイヤーに指示する。ロープに捩れがあるままロワーダウンすると摩擦でロープが傷んでしまう。(ロワーダウンの場合、摩擦部分が常に動くので焼き切れることはまず無いが、表皮が痛む)
24:コールの重要性
終了点に達して「テンションコール」の後テンションしてもクライマーからロワーダウンのコールがなければ勝手に降ろしたりしない。途中で「ストップ」などのコールがあることが多いのでコールには常に注意を払うこと (クライマーが下降途中で止まってホールドをブラッシングすることが多い)。クライマーがコールしない場合、ビレイヤー側から「どうしてほしいの?」と聞く。トップ・ロープからリードに進むとコールの重要性はますます大きくなる。
25:ロワーダウン
ロワーダウン時は手の中でロープを滑らせるようにして降ろす。よほど滑りが悪い時以外は手でロープを送らない。送ると速度が変わるので降ろされているクライマーが恐怖感を覚える。速度は一定を確保する。一定であれば速くても怖くない。クライマーの足が地面につく直前に速度を緩め、そっと着地できるようにする(急に着地させるとクライマーが踵/足首を痛めてしまう)。
26:着地
一旦クライマーが着地して「緩めてください」とコール したら素早くロープを出す(そうしないとクライマーのウエストが締まって苦しい)
27:ビレイ解除
クライマーの「ビレイ解除」のコールによりビレイヤーは 「解除します」とコールを返してビレイ解除(終了)
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